つい自分を責める人へ。セルフ・コンパッションで自分の心に寄り添う方法
何かを失敗したり、思うようにうまくいかなかったとき、「何をやっているの?」「私はいつも失敗ばかり」などと、つい自分に厳しく当たってしまっていませんか?
心が折れそうになる場面で、自分に厳しくなりがちな人にぜひ知ってほしいのが、自分を思いやり慈しむ「セルフ・コンパッション」の考え方です。一見難しそうですが、やり方を正しく理解すれば誰でも育むことができます。
今回は、セルフ・コンパッションを高める心理教育プログラムMSC(マインドフル・セルフ・コンパッション)の講師で、MELONインストラクターでもある金田絵美さんへのインタビューをもとに、セルフ・コンパッションの基本、セルフラブとの違い、日常での実践ヒントをご紹介します。
あなたは自分を責める声で自分を守ろうとしている
物事が上手くいかないときや、何かに失敗したとき、無意識のうちに聞こえてくる自分を責める声。その声は意外なことに、自分がこれ以上傷つかないようにするためということをご存じでしょうか?
先に自分で自分を責めておくことで、他人から何かを言われてもショックが少なくて済みます。過去の体験の積み重ねから無意識に自分を守ろうとし、必要以上に自分を卑下したり、劣っているように振る舞ってしまうのです。
無意識の癖でも、心配はいりません。セルフ・コンパッションの理論を正しく学んでいくことで、ありのままの自分を受け入れられるようになり、自分を責める声のトーンはどんどん優しくなっていきます。
セルフ・コンパッションとは「親友に接するように自分自身に接すること」
セルフ・コンパッションはよく、「親友に接するように自分に接すること」と表現されます。
例えば、仲のいい友達が仕事でミスをして落ち込んでいるとします。そんなとき、あなたは友達にどんな言葉をかけますか?
きっと「自分を責めないで。今はゆっくり休んで気持ちを切り替えよう」「誰にでもミスはあるから気にしなくて大丈夫だよ」など、単なる甘やかしではなく、相手が前向きになれるような温かい言葉を選ぶのではないでしょうか。
セルフ・コンパッションの基本的な考え方は、自分が辛い体験をしているとき、「もし友達が同じ体験をしていたらなんて声をかけるだろう?」と考えて、その言葉や態度を自分に向けてみることです。
この、“友達や親友”というところが実は大事なポイントです。例えば、パートナーや自分の子どもを想定すると、距離が近すぎて甘やかしになってしまったり、逆に厳しくなってしまったりしがちです。その点、友達や親友だと適度に程よい距離感で優しい態度で接したり、励ます言葉が出てきやすいのです。
セルフ・コンパッションは、自己肯定感を高める方法の一つとしてテキサス大学のクリスティン・ネフ博士が提唱し、2010年頃から一般に広がり始めたといわれてます。
セルフコンパッションとは何かは、こちらの記事でも詳しく解説しています。
セルフ・エスティームとの違い
自己肯定感を高める概念として、セルフ・エスティームという考え方もあります。セルフ・エスティームとは、日本語では「自尊心」「自尊感情」と訳され、自分のやっていることに自信や誇りを持つ感覚を指します。
セルフ・エスティームとセルフ・コンパッションの違いは以下のように表現されることがあります。
セルフ・エスティーム | 調子がいいときにはチヤホヤしてくれるけれど、本当に困っているときにいなくなってしまう友達 |
セルフ・コンパション | 辛いとき、本当に困ったときにそばにいてくれる友達 |
セルフ・エスティームは、物事が順調なときは役立ちますが、辛いときは自信を失いやすい側面もあります。だからこそ、セルフ・コンパッションを高めることで、困難な状況に対処しやすくなるのです。
参考:Self-esteem|Mind (The National Association for Mental Health)
セルフ・コンパッションの“優しさ”はわがままや甘えとは別物
自分に厳しい言葉を向けがちな人の中には、「優しくすると、わがまま放題になってしまうのではないか?成長しないのではないか?」と考える人も多いのではないでしょうか。
しかし、単なる甘やかしとセルフ・コンパッションでは優しさの中身に違いがあります。甘やかしが表面的なその場限りの優しさであるのに対して、セルフ・コンパッションは相手を成長させる優しさであるという点です。
例えば、ダイエット中に甘いものが食べたくなったとき、「たまにはいいよね」と見境なく食べてしまうのが“甘やかし”です。一方で、「ここまで頑張ってきたから、今日はフルーツを少し食べよう」と、自分を甘やかすのではなく、ありのままを認め、前向きに声をかけるのが“セルフ・コンパッション”です。
セルフ・コンパッションには、寄り添う陰の優しさと、一緒に乗り越えようと励ますような陽の優しさがあり、その両方が自分を支えてくれるのです。
セルフ・コンパッションを育むための3つの要素
セルフ・コンパッションを身につけるうえで、基礎となる要素が3つあります。3つの要素をバランスよく育んでいくと、本質的なセルフ・コンパッションが育っていきます。
マインドフルネス
マインドフルネスは、「今この瞬間の経験や思考に、評価や判断をせずに意識的に注意を向けることにより表れる気づき」と定義されます。
私たちの注意は常に過去や未来に向かいがちですが、マインドフルネスを習得することで、過去の失敗や未来への不安にとらわれず、意識を「今」に向けられるようになります。これにより、問題やストレスを単なる物事や事柄として客観的に捉え、適切に行動する力が育まれます。
例えば、自分を責める声が聞こえたとき、「あ、私はまた自分を責める声をかけていたな」と客観的に捉えられるようになるのもマインドフルネスの効果です。この「気づき」がセルフ・コンパッションの基礎になります。
マインドフルネスとは何かはこちらの記事で詳しく説明しています。
共通の人間性(Common humanity)
共通の人間性とは、自分の失敗や苦しみを、誰にでも起こり得る「人間としての普遍的な経験」として捉える視点です。「自分は不十分である、自分なんてポンコツだ」と自分を責めてしまっているときは、視野がすごく狭くなっています。でも、よく考えると完璧な人間なんてこの世に一人もいません。
つまり、目の前にある困難は「自分だけが経験する特別なもの」ではなく、他の多くの人も感じているものだと気づくことで、孤独感や自己批判から解放されやすくなります。
自分への優しさ(Self-kindness)
自分への優しさとは、自分を責めずに、親友に接するような思いやりをもって自分に接する姿勢です。自己否定や自己肯定ではなく、ありのままの自分を認め、苦しんでいる自分に優しい言葉をかけることで、真の成長が促されます。
慣れていないと自分に優しさを向けるのは歯痒かったり、居心地が悪く感じたりするかもしれません。セルフ・コンパッションが高まっていくことで徐々に慣れていくので、少しずつ始めましょう。
自分を責めるのをやめるには?セルフ・コンパッション実践法
自分を責めるのをやめるには、セルフ・コンパッションの実践方法を少しずつ生活に取り入れてみましょう。詳しいやり方を解説します。
マイクロストレスを感じたら、親友に接するように声を掛ける
セルフ・コンパッションを育むための一番シンプルな方法としてよくおすすめしているのが、「マイクロストレスを感じたときに、友達に接するように自分自身に接する」ことです。
マイクロストレスとは、例えば「コーヒーをうっかりこぼしてしまった」というような、日常生活の中で見過ごしてしまいそうな、とても些細なストレスのこと。
つい「もう私ってほんとバカ!」なんて言ってしまいそうなとき、友達に言うように「大丈夫?熱くなかった?また淹れ直せばいいよ」と自分自身に声をかけてみましょう。シンプルですが、とても効果的な方法です。
スージングタッチ
何かストレスを感じたときや不安感が襲ってきた時は、自分の体に優しく触れたりセルフハグをしたりする、「スージングタッチ」もおすすめです。自分を安心させ、落ち着かせることができます。
自分の体を触ることで、幸せホルモンと呼ばれる「オキシトシン」が放出されます。このホルモンは安心感をもたらすだけでなく、苦痛な感情、心臓や血管の負担も和らげるといわれています。
スージングタッチのやり方は簡単。まず、体のどこに触れると気持ちが和らぐかを感じ取りながら、安心する場所に優しく手を置きます。顔や首、腕、胸、お腹など心地いいと感じる箇所を触りながら、「よく頑張っているね」「いつもありがとう」などと声をかけるとよりリラックス効果が高まるでしょう。
参考:Supportive Touch|Self-Compassion Dr. Kristin Neff
MELONが運営する「MELONオンライン」では、セルフ・コンパッションを高めるのに欠かせないマインドフルネスのレッスンを提供しています。
一般社団法人マインドフルネス瞑想協会の資格を持つプロのインストラクターが、丁寧にわかりやすくレッスンを行うので、マインドフルネス初心者の方、一人だと継続できない方、やり方が正しいのか不安な方も安心してご参加いただけます。
また、定期的にセルフ・コンパッションの基礎が学べる特別講座も開催していますので、興味のある方はお知らせページにて、最新情報をご確認ください。
まとめ|自分を責める声に気がついたらセルフ・コンパッションを始めよう
今回は、つい自分を責めてしまいがちな人に「セルフ・コンパッション」の要素や日常生活への取り入れ方を紹介しました。
セルフ・コンパッションを高めるには、日常生活の中で自分に対して優しく声がけをしていくこと、書籍や講座などを通してセルフ・コンパッションの理論をきちんと学ぶことの両方からのアプローチが、セルフ・コンパッションを育むための近道といえます。
自分をつい責めてしまいがちな方は、ぜひセルフ・コンパッションの考え方を取り入れて、自分らしく過ごす第一歩を踏み出してくださいね。