セルフコンパッションとは?高めるやり方や効果、注意点を解説
「なんでいつも自分を責めてしまうんだろう」
「もっと自分に優しくなりたいけれど、どうしたらいいのかわからない」
こうした悩みを抱える方も多いのではないでしょうか。
現代社会では、情報過多やデジタル社会の影響、仕事や人間関係におけるプレッシャーや競争が増え、自分自身や周囲の期待に応えられないと感じることで、つい自己批判をしてしまうことが少なくありません。そんなときに有効なのが「セルフコンパッション」という考え方です。
今回は、MELONインストラクターの金田絵美さんへのインタビューを元に、セルフコンパッションの基本的な考え方や具体的なトレーニング方法、効果や注意点などについて解説します。
自分を責めてしまう自分や傷ついた心とどう向き合えば良いのかわからない方は、ぜひ参考にしてください。
セルフコンパッションとは?
セルフコンパッションは、心理学では「自己批判を減らし、ありのままの自分を受け入れること」と定義されています。わかりやすく言えば「自分に対して思いやりを持ち、慈しむ姿勢」のことです。
テキサス大学オースティン校のクリスティン・ネフ教授によって提唱された理念であり、多くの研究でその効果が証明されています。
特に、自己否定や厳しい自己評価に悩む人に有効なセルフケアであり、健やかなメンタルを保つための手段といえます。
参考:セルフ・コンパッションと「あるがまま」|公益社団法人日本心理学会
セルフコンパッションを構成する3つの要素
セルフコンパッションは、次の3つの要素で構成されています。
・マインドフルネス
・共通の人間性
・自分への優しさ
「マインドフルネス」は、今この瞬間の経験に注意を向けるセルフケアです。自分の苦しみを大きく、あるいは小さくとらえすぎず「傷ついている今の自分」をありのまま受け入れることで、心のバランスを取り戻します。
「共通の人間性」は、傷つくことやつらい目に合う自分を「こんなに辛いのは自分だけ」「孤独だ」と感じさせないための考え方のことです。「傷つくことは誰もが経験するもの」「つらいのは自分だけではない」と考え、ネガティブな感情による焦燥感や孤独感を軽減し、深く落ち込むことを防ぎます。
「自分への優しさ」とは、傷ついた自分を優しく癒す言葉や行動のことです。友達に接するのと同じように優しい言葉をかけたり、自分自身を抱きしめたりして、傷ついた心の回復を促します。
マインドフルネスの詳しい効果や全体像は、「マインドフルネスとは?意味・効果・仕組みなど全てを体系的に徹底解説」を参考にしてください。
セルフコンパッションが必要な理由
仕事や家庭でのプレッシャー、SNSの発展による他者との比較などが原因となり、現代の多くの人々が心の疲弊を感じています。
また、弱音を吐けない環境にいる人も多いことでしょう。
セルフコンパッションを高めることで、吐き出せない傷みやストレスを、自分自身が受け止められるようになります。自分で受け止めるといっても、傷ついた自分をなかったことにしたり、無理矢理消化したりするのではなく、弱っている自分を優しく抱きしめ寄り添うイメージです。
セルフコンパッションの向上は、自分自身に対する思いやりを育むと同時に、心を回復させる力を養い、日々の困難に立ち向かうエネルギーをもたらします。
セルフコンパッションを高めるトレーニング方法
セルフコンパッションは日々のトレーニングで高めることが可能です。
ここからは、セルフコンパッションを高めるトレーニング方法を見ていきましょう。
(1)慈悲の瞑想を行う
慈悲の瞑想は、セルフコンパッションの向上に有効なセルフケアです。
慈悲の言葉とともに自分自身を見つめる瞑想を行うことで、自分や他者に対して思いやりの感情を育みます。
具体的には、以下のように行います。
【慈悲の瞑想の基本のやり方】
1、座って姿勢を整える
2、「自分自身」に向けて慈悲のフレーズを唱える
3、「自分の大切な人たち」に向けて慈悲のフレーズを唱える
4、「世界中のすべての人たち」に慈悲のフレーズを唱える
慈悲の瞑想に関する詳しいやり方やフレーズの内容は、「「慈悲の瞑想」とは?すごい効果・やり方を解説!慈悲のフレーズやコツも紹介」で解説しています。ぜひ、参考にしてください。
(2)自分の体に優しく触れる(スージングタッチ)
自分の体に優しく触れる「スージングタッチ」も、セルフコンパッションを高める方法の1つです。
スージングには「落ち着かせる、なだめる」という意味があります。スージングタッチによって、ストレスを感じたときに自分を優しく包み込み、自分自身を安心させ気持ちを落ち着かせる効果が期待できます。
【スージングタッチの基本のやり方】
・手を胸に当てたり腕を優しくなでたりする
・ぎゅっとセルフハグをする
・疲れたときに自分の肩を優しくさする
・体に触れながら「よくがんばってるね」「疲れたね」など、自分自身に声掛けをする
(3)お気に入りのフレーズを見つける(コンフォートカード)
お気に入りのフレーズが書かれたカードやメモを「コンフォートカード」といい、持ち歩くことで気持ちが沈んだときの支えとなります。
たとえば、「完璧じゃなくてもいいんだよ」と書かれたコンフォートカードをバッグに入れておきます。仕事中や外出先でつい自分を責めてしまったとき、カードを眺めることで、誰かに優しい言葉をかけてもらえたような気持ちになるでしょう。
ネガティブな思考に陥りやすい方は、財布やスマホカバーの中など、さっと取り出せるところにコンフォートカードを用意しておくのがおすすめです。
(4)自分に手紙を書く(ロールレタリング)
日本の少年院で生まれたセルフケア方法「ロールレタリング」も、セルフコンパッションを高める手段として有効です。
ロールレタリングでは「優しくて思いやりのある人物」を頭に思い浮かべ、その人物になりきって自分自身へ手紙を書きます。人物像は想像上のキャラクターや身近な人、あるいは作品の登場人物でも構いません。
自分宛の手紙を「架空の優しい人物」になって書くことで、自分が本当に欲しい言葉を、自分自身に投げかけられます。
また、手紙を書くことは自分と向き合うことにもつながります。手紙によって自己理解を深めれば、心が傷つく根本の原因や必要な対処方法なども見えてくるでしょう。
参考:金子周平(2020). 役割交換書簡法・ロールレタリングの機能分類と手紙使用の独自性. 九州大学心理学研究, 12巻.
セルフコンパッションを高めることで得られる効果
セルフコンパッションを高めることで、どのような効果を得られるのでしょうか。
セルフコンパッションを高めるメリットを見ていきましょう。
ポジティブな思考になれる
セルフコンパッションが向上すると、自己否定的な感情が減り、前向きな気持ちを育むことができます。その結果、幸福感や楽観性などポジティブな思考が育まれ、物事を明るく捉えられるようになるでしょう。
また、ポジティブ思考によって失敗を恐れない心が養われれば、物事に対しても積極的になれます。
参考:Aljoscha Dreisoernerら(2020). The Relationship Among the Components of Self-compassion: A Pilot Study Using a Compassionate Writing Intervention to Enhance Self-kindness, Common Humanity, and Mindfulness. Journal of Happiness Studies, 22, (21-47).
心の回復力(レジリエンス)を高められる
セルフコンパッションを行うことで、自分を責めない「心の柔軟性」を育めます。
学生を対象にして行われた研究では、セルフコンパッションを実施した学生とそうでない学生を比較すると、セルフコンパッションを行った学生のほうがより早く、ネガティブな刺激から気持ちを切り替えることができた、という結果が明らかになっています。
セルフコンパッションを高めることによって気持ちの切り替えがスムーズにできるようになれば、困難や傷つく場面に直面しても、気持ちを立て直しやすくなるでしょう。
参考:Vania T. Yipら(2021). Self-compassion and attention: self-compassion facilitates disengagement from negative stimuli. The Journal of Positive Psychology, 16, (5).
「先延ばし行動」を減らせる
セルフコンパッションの向上は、物事を「先延ばし」にする行動が抑制されることも、研究から判明しています。
これは、否定的な感情や思考がセルフコンパッションの向上によって減少し、取り組むべきことに対してネガティブな感情を抱きにくくなるためです。
セルフコンパッションを高めて勉強や仕事に対して「自分ならできる」「ここでがんばることに意味がある」と思えるようになれば、自然と行動への意欲が湧き、前向きに取り組む姿勢が生まれます。
参考:小林広和ら(2021). セルフ・コンパッションは先延ばしと気晴らしへの依存を抑制するのか. 信州心理臨床紀要, 20巻.
目標を達成しやすくなる
セルフコンパッションが高い人は、自己認知能力に優れています。
自分がどれだけできるのか、不向きなことは何かなどを把握しているため、仕事や学業面で、自分の能力に合わせた目標の設定が可能です。
目標に向けた歩みを無理のないペースで進められるため、目標の達成率が高いといえます。
また、セルフコンパッションが高い人は目標達成の途中で困難に遭遇しても、感情に焦点をあてたケアを行う傾向にあります。つまずいても落ち込みすぎず、再びゴールに向けてポジティブに取り組めるため、目標達成がしやすくなるのです。
参考:Kristin D. Neffら(2005). Self-compassion, achievement goals, and coping with academic failure. Self and Identity, 4, (3).
対人関係がより良くなる
セルフコンパッションと対人関係について調査した研究では、セルフコンパッションが高い人は対人関係で問題が生じても、積極的に関係の改善に踏み出す傾向にあることも判明しています。
自分に優しくなれると、他人のミスや欠点にも寛容に接することが可能です。これにより人間関係でトラブルが生じた際にも相手を責めず、また、自分自身を過度に責めることも避けられます。
冷静でおおらかな姿勢を保ちながら相手と向き合えれば、関係改善に向けた歩み寄りが可能になるでしょう。
参考:宮川裕基ら(2017). セルフコンパッションと親密性に基づく選択的な関係維持―対人ストレス場面に着目して―. 日本心理学会第81回大会発表論文集, 81巻.
セルフコンパッションの注意点
自分自身の傷みや苦しみを受け止めるセルフコンパッションですが、人によってはうまくいかず、効果を実感できないこともあります。
セルフコンパッションを高める際の注意点を、見ていきましょう。
セルフコンパッションを「甘え」と捉えない
セルフコンパッションは自分自身に寛容になるセルフケアです。自分の弱さや至らない部分を受け止め、自分の心を優しく包み込みます。
しかし、人によっては弱さや至らない部分に対して寛容になることを「甘え」と捉えてしまう場合もあるようです。
セルフコンパッションによって自分自身を受け止めることは、自分の成長を促すための行為です。甘えとは異なり、自分の欠点を認識し受け入れる姿勢を養うことで、次の一歩を踏み出すための力を育みます。
そのためセルフコンパッションに取り組む際は、自己受容を「甘え」ではなく、成長に必要なプロセスと捉えることが大切です。
痛みを伴うこともある
セルフコンパッションは自分の弱さや辛い部分と向き合うため、精神的な苦痛を伴うこともあります。心のダメージの度合いによっては、セルフコンパッションの実践自体に、ストレスを感じることもあるでしょう。
自分の傷ついている部分と向き合うのが苦痛であれば、セルフコンパッションを無理に行わないことも、自分への思いやりです。
心と向き合えるだけのエネルギーを蓄えてから、再びセルフコンパッションを実践することを検討してみましょう。
セルフコンパッションはすぐに高めることはできない
セルフコンパッションは、一朝一夕で身につくものではなく、効果を実感するには一定期間の継続的な取り組みが必要です。
効果を実感するまでの期間は、5〜10週間ほどが目安です。この期間にわたり、瞑想やスージングタッチなどの方法を日々の生活に取り入れることで、セルフコンパッションが徐々に深まります。
焦らず、自分に合った方法で継続することが、効果を実感するための鍵です。
参考:山本真由美(2023). セルフ・コンパッションに焦点を当てた心理学的介入とその職場での活用方法. 産業精神保健, 31巻, 3号.
まとめ|セルフコンパッションを高めて自分にも人にも優しく
セルフコンパッションは、自分自身に優しさと思いやりを向けるセルフケアの一環として、大きな効果をもたらします。
セルフコンパッションを高めるトレーニングを日常に取り入れ、少しずつ自分自身を思いやる心を育んでいきましょう。
今回紹介した内容を参考に、自分を大切にし、優しく受け止める日々を始めてみてくださいね。
セルフコンパッションの要素の1つに含まれる「マインドフルネス」。マインドフルネスに取り組むことで自分の感情に気づき、それをありのまま受け止める心が養われます。
オンライン・マインドフルネスサービス「MELONオンライン」では、セルフコンパッションを高めるのに効果的な、さまざまなマインドフルネスのクラスが揃っています。
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