EQ(心の知能指数)とは?企業への影響や従業員のEQの高め方
「従業員同士の衝突が多く、職場の雰囲気が悪化している」
「リーダー層のマネジメントスキルに課題を感じている」
これらは企業運営において頻出する課題ですが、近年、その解決策として「EQ」に着目する企業が増えています。
EQは、感情を理解し適切にコントロールする能力を測る指標です。職場の人間関係や生産性、エンゲージメント向上に大きく寄与します。
この記事ではEQの基本的な情報や企業への影響、従業員のEQを高める具体的な方法について解説します。課題解決の糸口として、ぜひ参考にしてください。
EQ(心の知能指数)とは?
EQは「Emotional Intelligence Quotient」の略で、心の知能指数と呼ばれています。他人や自分自身の感情を理解し、感情に合わせて状況を適切にコントロールする能力を示す指標のことで、アメリカの心理学者ピーター・サロベイ氏とジョン・メイヤー氏によって1990年に提唱されました。
EQはトレーニングによって高めることが可能であり、近年ではリーダーシップの育成や職場環境の改善などにおいて、重要視される存在となっています。
IQ(Intelligence Quotient、知能指数)との違い
EQとよく似た言葉として、IQが挙げられます。IQは「Intelligence Quotient」の略で、記憶力や問題解決能力などの知能指数を表すものです。
後天的に培うことのできるEQとは異なり、IQは先天的な要素が強く、トレーニングで飛躍的に向上させることは難しいとされています。
EI(Emotional Intelligence、感情知能)との違い
EI(Emotional Intelligence)とEQは密接に関連していますが、似ているようで異なる部分も持ち合わせています。
例えばEIは「感情知能」を指し、自分や他者の感情への理解力を示すものです。一方、EQは自分や他者が抱く感情への理解力を測定し、数値化された指標になります。
「EIの度合いを示すツールがEQ」と捉えると、わかりやすいのではないでしょうか。
EQ(心の知能指数)を構成する5つの要素
EQは次の5つの要素で構成されています。
自己認識:気分や感情、欲動の自己理解と、それらが他者に与える影響を認識する力
自己統制:自分の内面の状態や、衝動をコントロールする力
モチベーション(動機づけ):精力的に粘り強く、目的を達成しようとする内面的な情熱
共感:他者の気持ちや欲求、関心を理解する力
社会的技能:人間関係のマネジメントに優れ、他者から望ましい反応を引き出せる力
EQを構成する要素は個別に働くのではなく、相互に補完し合う関係性を持っています。例えば、自己認識力が高まれば、自分の感情にも気づきやすくなります。その結果、自分の感情をコントロールし、他者と良好なコミュニケーションを保つことが可能です。
また、共感力と社会的スキルが高い人は、チームのモチベーションを高める能力にも優れています。
5つ全ての要素を満遍なく向上させることが理想ですが、人によって伸びやすい要素やそうでない要素があります。また、立場や職場環境によって必要となる能力も異なります。
そのためEQの向上にむけた取り組みを行う際、最初のうちは特定の要素の向上に集中すると良いでしょう。相互効果によってその他の要素が呼応され、向上することが期待できます。
EQの向上が企業に与える影響
EQを高めることは、企業にとってさまざまな良い影響を与えます。
ここからはEQの向上が企業に与える影響を見ていきましょう。
生産性の向上
EQの高い上司は、部下の気持ちや状況を理解する能力に長けているため、フィードバックの際も単なる批判ではなく、モチベーションを引き出す言葉を選べます。
適切なフィードバックを受けることで、従業員のスキルややる気が高まり、生産性が向上します。
参考:Kit Brooksら (2006). Human resource development, social capital, emotional intelligence: Any link to productivity?. Journal of European Industrial Training, 30,(2).
継続力の強化
EQの高い従業員は困難な状況下でも感情をコントロールできるため、与えられた仕事に最後まで粘り強く取り組むことが可能です。
従業員の忍耐力が高まることで、プロジェクトの完遂率が上がります。また、心労による離職のリスクも低減できます。
参考:臼倉瞳 (2023). 感情制御における柔軟性に関する研究の動向と今後の展望. 東北学院大学教養学部論集, 193号.
職場の人間関係の円滑化
EQが上司と部下の人間関係に及ぼす影響を調べた研究では、EQ向上の研修を受けた部下は、上司に対する認識がより良いものへと変化し、人間関係が改善していることが判明しています。
また、上司のEQが高いことで、部下との人間関係が良好化する資料もあります。
EQを高めることで、相手と自分の感情を理解し、状況に応じた対応を取れるようになれます。感情を理解し、その場にふさわしいふるまいができれば職場の人間関係も良好化し、チーム全体の結束力も高まるでしょう。
参考:多田浩司 (2012). 感情知能の変化が上司と部下の関係性に与える影響. 組織科学, 46巻, 1号.
参考:Chao Miaoら (2016). Leader emotional intelligence and subordinate job satisfaction: A meta-analysis of main, mediator, and moderator effects. Personality and Individual Differences, 102.
ハラスメント防止
EQの高い上司は、部下の気持ちを理解し自分の感情のコントロールが可能です。
これにより、「パワハラ」や「アルハラ」など、理不尽な行為を強要するハラスメントのリスクを大幅に低減できます。
ハラスメントが減少し、従業員が気兼ねなく意見を述べたり問題点を共有できたりする環境が整えば、ボトムアップされた意見の把握がしやすくなります。
エンゲージメントの向上
従業員のEQが高まると、従業員同士もお互いを気遣いながら仕事ができるため、職場環境の改善が期待できます。
職場環境は従業員のエンゲージメントに、大きく関わる要素です。心地よく働ける職場の実現によって従業員のエンゲージメントが高まれば、仕事へのやる気アップにつながります。その結果、企業全体の成長にも寄与するでしょう。
EQが高い人と低い人の特徴
EQが高い人は感情を的確にコントロールし、人間関係を円滑に進める力を持っています。一方、EQが低い人は感情のコントロールが苦手で、ストレスや不満を抱えやすい傾向にあります。
それぞれの特徴を見てみましょう。
EQが高い人
EQが高い人には、以下の特徴があります。
・柔軟性が高い
・共感力に優れている
・傾聴力がある
・素直
・粘り強い
・切り替え上手
EQが高い人は、自分にも他者にも柔軟な対応ができます。気持ちに寄り添った行動が可能なため、チームのムードメーカーや相談役として、人に頼られる存在です。
また、上司の意見も素直に取り入れ、何事にも熱心に取り組むため、プロジェクトを円滑に進める重要な人物となります。
EQが低い人
一方で、EQが低い人は以下の傾向にあります。
・共感性に乏しい
・不平・不満が多い
・短気
・自己中心的
・協調性が低い
EQが低い人は他者の感情を理解する能力が低く、相手の状況を顧みずに不平や不満を口にしてしまいがちです。
また、他者や自分の感情と状況を結びつけることが苦手なため、自己中心的な振る舞いが目立ちます。協調性のない行いから、チームで孤立してしまうことも少なくありません。
EQが低い原因とは?
EQが低い理由は一概にはいえず、さまざまな要因が絡み合うことが、感情への理解を妨げる原因となります。
例えば、学生を対象にした研究では、幼少期のトラウマを抱えている人は共感力が低く、他者に寄り添うことを苦手とする傾向にあることが判明しています。
また、「感情的になるな」「感情で仕事をするな」など、感情について論じることを否定する社会の体制も、EQの向上を妨げる原因といえるでしょう。さらに謙遜をよしとする日本の文化も、自己認知を歪ませる原因の1つであり、EQが育たない要因として挙げられます。
このようにEQが低い原因はさまざまですが、EQそのものは後天的に高めることも可能です。幼少期や現在の環境が必ずしもEQの向上に理想的でなくても、自分の感情を見つめ、他者への理解を深める取り組みを積極的に行うことで、EQに良い変化が生じます。
参考:Yanan Zhengら (2022).Research on the Relationship between Empathy, Belief in a Just World, and Childhood Trauma in Pre-Clinical Medical Students.Healthcare , 10, (10).
従業員のEQを育成する方法
従業員のEQを育成するためには、次の方法を取り入れることが有効です。
EQを高める具体的な方法を、解説します。
自身の行動・思考のパターンを理解する
まずは従業員自身が、自分の行動・思考パターンを理解することが大切です。
行動特性とEQの変化に関する研究では、自身の行動や思考のパターンを理解することで、EQが向上することが明らかになっています。
自分自身を見つめ直すよう促すだけでなく、グループミーティングなどお互いの行動・思考パターンを発表したり指摘しあったりする機会を設けることも有効です。
他者から行動や思考のパターンを指摘されることで、より深い自己理解が促進されます。
参考:畠一樹ら(2016). 初年次学生の行動特性把握によるEQ能力開発手法の提案. 大学教育研究ジャーナル, 13号.
業務の1つとして「日記」を取り入れる
日記をつけることは、自分自身を知るためのシンプルで効果的な方法です。日報や週報の一環として、感情や気付きを記録する項目を設けることをおすすめします。
日記をつけることで、状況別に湧き上がる感情を可視化できます。感情を「見える化」することで、自己認識を深め、EQを向上させる効果が期待できます。
参考:心の知能指数(EQ)と脳科学|一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会
従業員の話に耳を傾ける
一般の従業員だけでなく、経営陣や部下を持つ管理職も、EQを高める取り組みを行うことが重要です。
定期的な1on1ミーティングや適度なコミュニケーションなどを取り入れ、従業員へ傾聴の姿勢を示すことで、部下に「感情や状況の共有」の重要性への理解を促すことができます。その結果、部下自身のEQ向上が期待できます。
参考:Emotional Intelligence Skills: What They Are & How to Develop Them|Harvard Business School Online
マインドフルネスを取り入れる
EQを構成する5つの要素を鍛えられる、マインドフルネスを会社や部署単位で導入するのも良い方法です。
マインドフルネスとは、自分自身の感情や思考を理解し、ありのままを受け止めるセルフケアのことをいいます。
自分自身を見つめ直すことは、状況に応じた対応スキルの獲得や他者との関係性の構築に重要な考え方などを、身につけることにつながります。
MELONが提供する「心と感情のスキルを向上させるための研修プログラム」は、メンタルヘルス、レジリエンス、コミュニケーション、心理的安全性の改善に特化したサービスです。組織の課題や目的に応じて、従業員のEQ向上をはじめとする最適な研修プログラムをご提案いたします。
「結果を出す」ことにフォーカスしたプログラムでは、座学に加えセルフケアツールを活用した実践練習を行い、研修の前後で効果測定を実施することで、研修の成果を可視化します
その効果は早稲田大学との共同研究で実証済みで、導入企業では2か月でストレス値が平均19%改善しています。高ストレス者からストレスが比較的少ない人まで幅広くサポートし、離職・休職の予防や生産性の向上を実現します。
より詳しい情報については、画像リンクからご確認ください。
まとめ|EQを高めて従業員のモチベーション・生産性アップ
EQの向上は自分や周囲の人の感情を理解し、コントロールする力を高めるだけでなく、職場環境や生産性にも良い影響を与えます。
EQを向上させる具体的な方法として、日記や1on1ミーティング、マインドフルネスの導入などが有効です。
組織の課題解決や従業員の成長をサポートするために、本記事を参考にして、具体的な施策を始めてみてください。
マインドフルネスが企業に寄与する効果は、「マインドフルネスが企業にもたらす効果とは?導入事例や実践法も解説」で詳しく解説しています。ぜひ、参考にしてください。