マインドフルネスが企業にもたらす効果とは?導入事例や実践法も解説
「従業員のやる気が上がらず、生産性が低い」
「従業員のストレス負荷が大きく、休職者や離職者が増えている」
「企業のミッションがなかなか浸透しない」
など企業が抱える問題は多様化しており、どこから手をつければ良いのかわからない経営者の方や人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
これらの問題を一気に解決してくれる可能性を秘めているのが「マインドフルネス」です。Googleを含む大手企業も導入しているマインドフルネスは、実践すると「今ここ」に集中できるようになり、集中力を含めたビジネススキルや、ストレス対処能力が向上します。
今回は、マインドフルネスが企業にもたらすメリットや企業での導入事例を紹介し、企業に導入する方法まで解説します。
マインドフルネスとは何かを詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
マインドフルネスが企業にもたらす効果とは?導入のメリットを研究結果から解説
マインドフルネスは、オックスフォード大学を含む一流の研究機関で研究され、効果が実証されているセルフケアです。ここでは企業にもたらすメリットを研究に基づいて紹介します。
マインドフルネスの効果についてはこちらの記事でも詳しく紹介しています。
(1)集中力が高まり生産性が向上する
マインドフルネスには集中力を向上させ、結果的に仕事のパフォーマンスも高める効果があります。
研究によれば、マインドフルネスが脳のマインドワンダリングを減少させ、集中力を高めることで、ワーキングメモリとテストのスコアが上昇すると判明しています。
ワーキングメモリは、脳が情報を一時的に保持し操作する能力で、「前の会話の内容を記憶しながら会話を続ける」「関連する情報を保持しながら解決策を考える」といった複雑なタスクに不可欠で、仕事の効率にも関わっています。
マインドフルネスを実践することで、余計なことを考えずに目の前のタスクに集中できるようになるため、仕事の効率やクオリティが向上します。
参考:Michael D. Mrazekら (2013). Mindfulness Training Improves Working Memory Capacity and GRE Performance While Reducing Mind Wandering. Sage Journals, 24, (5).
(2)ストレスへの対応力を向上させ、休職や離職を防ぐ
メンタルヘルスが原因で休職する従業員の数は増加しており、従業員のメンタルケアは企業にとって急務の問題となっています。例えば、経済協力開発機構(OECD)によると、日本国内のうつ病・うつ状態の人の割合は、2013年の7.9%から2020年には17.3%と2.2倍に増加しました。
うつ病の原因として、DMN(デフォルトモードネットワーク)が過剰に活発になることが挙げられます。DMNとは、脳が無意識かつ自動的に活発になる脳機能ネットワークで、無意識に過去のネガティブな出来事や未来の不安を考え続けさせることで、うつ病や不安障害を引き起こします。
マインドフルネスは、DMNの主要な領域である内側前頭前野と後部帯状皮質の活性を抑制し、ネガティブな思考から抜け出しやすくする効果があります。これにより、ストレスが溜まらない状態を作り、メンタルヘルスが改善されるのです。
参考:Tackling the mental health impact of the COVID-19 crisis: An integrated, whole-of-society response|経済協力開発機構(OECD)
参考:Judson A. Brewerら(2011). Meditation experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity. PNAS, 108, (50).
(3)心理的安全性が高まり、パフォーマンスが向上する
Googleの研究によると、成果を出せるチームを作るには優秀なメンバーがいるかどうか以上に、安心して意見やアイデアを自由に話せる「心理的安全性」が確保されていることが重要です。
マインドフルネスによって「あの人はどうせ意見を聞いてくれない」「あの人とは意見が合わない」などの判断しない心が養われます。周囲のメンバーを思いやるようになり心理的安全性が確保されるようになります。
実際に、マインドフルネスを導入したことで従業員の対立が減少したという研究もあります。
参考:「効果的なチームとは何か」を知る|Google re:Work
参考:Reginald Paul R Centenoら (2020). Effect of Mindfulness on Empathy and Self-Compassion: An Adapted MBCT Program on Filipino College Students. Behavioral Sciences, 10, (3).
参考:Lingtao Yuら (2017). Introducing Team Mindfulness and Considering its Safeguard Role Against Conflict Transformation and Social Undermining. Academy of Management Journal, 61, (1).
(4)エンゲージメントを向上させる
エンゲージメントは会社の生産性向上や持続的な成長に欠かせない要素ですが、マインドフルネスはエンゲージメントを向上させます。
研究によると、マインドフルネスは従業員の仕事の有意義性、感情調節能力、職務能力を促進しエンゲージメントを高めると実証されています。これらの要素が向上する背景には、マインドフルネスによる以下の効果があると考えられます。
有意義性:メタ認知力を高め、視野が広がることで、自分が社会の一員であるという認識を持てるようになる
感情調節:脳に変化を起こしネガティブな感情を手放せるようになる
職務能力:集中力の向上や視野が広がることで、仕事のパフォーマンスが向上する
このように、マインドフルネスを実践することで、従業員が前向きに仕事に向き合えるようになりエンゲージメントが向上します。
参考:Liang Chenら (2022). From mindfulness to work engagement: The mediating roles of work meaningfulness, emotion regulation, and job competence. Frontiers in Psychology, 13.
(5)クリエイティビティを発揮させる
変化の激しい社会では創造性を持つ人材の育成が重要ですが、マインドフルネスは創造性を向上させる効果もあります。
研究によると、マインドフルネスと創造性の間には正の相関があり、特に収束的思考を強化します。
収束的思考とは、多様な情報やアイデアから最適な解決策を選び出したり、アイデアを組み合わせてより良い方法を探る思考プロセスです。価値あるものを創り出す過程において、収束的思考は重要な役割を果たします。
参考:Zoe Hughesら (2023). A meta-analytical review of the impact of mindfulness on creativity: Framing current lines of research and defining moderator variables. Psychonomic Bulletin & Review, 30, (6).
企業のマインドフルネス導入事例を紹介|Googleから大手日本企業まで
企業にもメリットをもたらすマインドフルネスは、Googleが研修として導入して以降、世界で注目を浴び、ほかの大手企業でも取り入れる動きが強まっています。
Googleは2007年から「Search Inside Yourself(SIY)」というマインドフルネス研修を導入しており、Google社内でも「集中力の向上」や「困難な状況を前向きに捉えられるようになった」などの効果が実証されました。
日本でもマインドフルネスを導入する企業が増えてきており、「LINEヤフー」「メルカリ」「大和証券グループ」などの大手企業もマインドフルネスを研修として導入しています。これらの企業でも「業務パフォーマンスの向上」や「ストレスの対処能力向上」などの効果が報告されています。
Googleや大手日本企業でのマインドフルネス導入事例についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
企業で導入できるマインドフルネス3選
ここまで読んで「自分の会社にもマインドフルネスを取り入れたい!」と思った方向けに、企業にマインドフルネスを導入する方法を3つ紹介します。
(1)研修でマインドフルネスの理論を学ぶ
導入方法の一つとして、研修を実施し、マインドフルネスの概要を説明して従業員に実践を促す方法があります。
例えば以下のような内容を学び、家やオフィスで実行するように促します。
・マインドフルネスとは何か
・どのような効果があるのか
・具体的な実践法
可能であればその場で簡単に実践してみることで、より理解が深まり、研修後も継続しやすくなります。
マインドフルネスの意味や効果については以下の記事で詳しく解説しています。
(2)マインドフルネスを実践する時間を設ける
勤務時間内にマインドフルネスを実践する方法もあります。
例えば、会議の冒頭にマインドフルネス瞑想を取り入れた企業では、瞑想後の気分を共有することで参加者同士の親密さや絆を深めています。
「初心者でも簡単にできるマインドフルネス瞑想のやり方を解説!毎日5分で効果を実感」の記事では、初心者でも実践しやすいマインドフルネス瞑想の方法を紹介しています。
座って行う瞑想から、ランチミーティングに取り入れられる「食べる瞑想」など、さまざまな手法があります。参加者のニーズに合わせてこれらの手法を取り入れることで、マインドフルネスが広まりやすくなります。
参考:いまこそマインドフルネスを実践する好機である|Harvard Business Reviw
(3)福利厚生としてオンラインレッスンを提供する
福利厚生として、オンラインのマインドフルネスレッスンを提供することも一つの手段です。例として、マインドフルネスのオンラインレッスンを提供している2つの団体と特徴を紹介します。
MELON ONLINE | ・300以上の多種多様なクラスが受け放題 ・リアルタイムのレッスンだけでなくアーカイブ配信もあるので、自分の都合に合わせて参加でき継続しやすい |
現代マインドフルネスセンター | ・医学的に効果が認められている「MBSR(マインドフルネスストレス低減法)」の8週間のコースを受講可能 |
MELONでは、個人と組織の課題を解決する「法人向けプラン」を提供しており、すでに200を超える企業で導入されています。
継続して利用しやすいセルフケアのコンテンツ「MELON ONLINE」やパルスサーベイによるストレス計測を活用することで、これまで見過ごされがちだったメンタル不調の早期発見や、高ストレス状態にある社員の適切なケアが実現できます。
導入企業の1か月後のサーベイでは、平均してストレスが19%軽減。さらに、睡眠の質が20.9%、レジリエンスが23.4%、疲労感回復が20.6%それぞれ向上しています。
早稲田大学との共同研究で高い効果が実証されたプログラムで、メンタル不調の予防だけでなく、離職・休職予防や生産性向上が叶います。詳しくは下記バナーからお問い合わせください。
企業でマインドフルネスを導入するには研修がおすすめ
ご紹介したとおり、企業にマインドフルネスを導入する方法はさまざまです。しかし、初心者にとってマインドフルネスは捉えづらく、やり方が正しいかどうか悩む人も多くいるため、最初は研修を導入することを推奨します。
ここでは、一般的なマインドフルネス研修の内容や選び方を紹介します。
内容
一般的なマインドフルネス研修は以下の2つで構成されています。
・座学:マインドフルネスの基本的な理論や実践方法を学ぶ
・実践:参加者がその場で実際に実践する
形式はオンラインと対面の両方があり、ニーズに合わせて選択できます。
研修の選び方
さまざまな団体がマインドフルネス研修を提供しているので、効果的なものを選ぶポイントを紹介します。
講師の質:マインドフルネス研修の質は講師の質に左右されます。公認資格の有無や、過去の参加者のフィードバックを確認し、効果が実証されているものを選びましょう。
内容やカスタマイズ性:マインドフルネス研修を実施しても、「都合が合わず参加者が少ない」「研修の効果が求めていたものと違っている」といった問題があると実施した意味が薄れてしまいます。研修の目的や形式が企業のニーズに一致しているか、もしくはカスタマイズして一致させられるかを確認しましょう。
継続性とフォローアップ体制:「マインドフルネスを社内で実践する場合は最低2か月は継続」で紹介しているとおり、マインドフルネスは継続が大切です。フォローアップセッションや、オンラインツールなど受講者の継続を促すサポートがある研修を選ぶと良いでしょう。
マインドフルネス研修の効果や選び方はこちらの記事で詳しく解説しています。
マインドフルネスを社内で実践する場合は最低2か月は継続
マインドフルネスを実践する場合、どの程度継続すべきかという疑問が生まれるかもしれません。
マインドフルネスは、2か月継続することで効果が徐々に実感できるようになると研究で明らかになっています。
一度の実践でも頭がスッキリする程度の効果を感じる人もいますが、脳に変化を起こし、感情をコントロールする能力が向上するほどの本質的な効果を感じるには、2か月程度の継続を目安としてください。
参考:Ietsugu Tetsujiら(2014). Gradually getting better: Trajectories of change in rumination and anxious worry in mindfulness-based cognitive therapy for prevention of relapse to recurrent depression. Mindfulness,6.
こちらの記事では、継続が必要な理由と継続するコツを詳しく解説しています。
まとめ|マインドフルネスを導入して企業の課題を解決
今回はマインドフルネスを企業に導入するメリットや事例、導入方法を解説しました。
変化と競争の激しい時代において、企業は生産性向上から従業員のメンタルケアまでさまざまな課題に直面しています。
マインドフルネスは、これらの課題を一挙に解決できる手軽な手法です。ぜひ企業に導入して、従業員が生き生きと前向きに、そしてパッションを持って働ける組織を創りましょう。