アンガーマネジメントとは?怒りをコントロールする効果やコツを解説
最近怒りっぽかったり、常にイライラしたりしていませんか?「怒らなくなりたい」と思っている人に役立つスキルが、アンガーマネジメントです。
1970年代にアメリカで生まれたアンガーマネジメントは、怒りの癖を知り、怒りを上手くコントロールする方法です。溜め込む前にネガティブな気持ちを発散したり、怒りに遭遇したとき深呼吸をしたりなど、カッとしたときに役立つテクニックがあります。
今回はMELONのインストラクターで公認心理師、精神保健福祉士でもある関口奈央さん監修のもと、アンガーマネジメントを取り入れる効果や具体的な実践方法を詳しく説明します。
アンガーマネジメントとは
アンガーマネジメント(Anger management)は、日本語で「怒りの管理方法」という意味。1970年代にアメリカで犯罪者の矯正プログラムとして確立され、現在ではセルフケアのみならず、世界各地の企業や教育機関の研修プログラムとしても取り入れられています。
アンガーマネジメントが目指すのは、怒りに支配されるのではなく、怒りをコントロールすること。怒りは「予測不能で突発的に起こる」イメージがありますが、実は怒りが起きる前には、原因となる感情が積み重なっています。
怒りをコントロールできるようになると、仕事や家族、友人など人間関係に良い影響を及ぼすだけでなく、ストレスが減ることで自分の心と体にもプラスの作用があります。
怒りはなぜ発生するのか
そもそも、なぜ怒りは発生するのでしょうか。
ドイツの心理学者アドラーは、日常生活で怒ったネガティブな感情(第一次感情)が、目に見える形で発生するのが怒り(第二次感情)としています。
つまり怒りは単体で発生するものではなく、不安や悲しみ、悔しさ、恥ずかしさなど原因となる第一次感情が積み重なることで引き起こされます。
社会的道徳的に関する怒りは思考や感情をコントロールする前頭前野、本能的な怒りは感情をつかさどる扁桃体が関係します。
強い怒りや不安が発生すると、扁桃体が活性化し、前頭前野にエネルギーが行き届かず、怒りにブレーキがかけられない状態になってしまうのです。
怒り自体は悪い感情ではない
怒りは悪者のように扱われていますが、危険を回避したり、価値観や自尊心を守ったりする防衛本能で、人間に欠かせない感情です。体や心、もしくはその両方を守るために、おかしいと思う気持ちを伝える手段が怒りです。
アメリカのカーネギーメロン大学の研究で、「人間は強いストレスを感じた際、適度に怒りを発散することで自分をコントロールできるようになる」と証明されています。
参考文献・エビデンス :Study Finds Anger is Healthier Than Fear | Carnegie Mellon University
アンガーマネジメントが難しい状況はどんなとき?
暮らしのなかには、アンガーマネジメントが難しい状況がたくさん潜んでいます。ここでは、さまざまなケースとどんな第一次感情が怒りの原因となっているかを見ていきましょう。
ランニング中に無灯火の自転車が飛び出してきた
仕事終わりにストレス発散のためランニングに出かけたとき、交差点でいきなり無灯火の自転車が飛び出してきました。
思わず大声で「危ない!」と叫んだり、「何をやっているんだ」と怒鳴ってしまったりするかもしれません。心臓もドキドキして、鼓動が止まりません。
これは恐怖と驚きが第一次感情で、命の危険を守るための反応です。
ミスや間違いを指摘された
職場や学校、家庭でミスを指摘されると、「うるさい」「いちいち指摘するな」などとついムキになって言い返したくなりますよね。
これは悲しさや不安、恥ずかしさなどが第一次感情で、「否定された」「評価されていない」「みんなの前で恥ずかしい」などの思いが隠れています。
時間がないのに急な頼みごとや仕事を振られた
時間に追われているときに限って、急な頼み事や別の仕事を振られたときもアンガーマネジメントが難しいシーンです。
余裕がないと、きつい言葉がでてきてしまうことがあります。言葉にできずグッと堪えることもあるかもしれません。
これは不安や悲しみ、困惑などが第一次感情です。「もしうまくできなかったらどうしよう」「なぜ誰も自分を手伝ってくれないのか」といった感情があります。
誰かに言われた言葉を何度も思い出してしまう
「あの時こう言われた」「あんな態度は私を馬鹿にしている」など、特定のシーンや言葉が頭に浮かんで、怒りが湧き上がってくるシーンもアンガーマネジメントが難しい状況です。
これは寂しさや悲しさ、落胆、不安などが第一次感情で、浮かんだ感情をグッと我慢して消化不良を起こしています。
考えれば考えるほど、ネガティブな感情が湧いてきます。怒りが消えないと、いずれは恨みや憎しみになってしまいます。
こちら記事では、イライラしたらすぐに実践できる「怒りを抑える方法」を紹介しています。怒りを抑えたいと思っている人は、ぜひこちらもご覧ください。
アンガーマネジメントを身につけるメリット
では、アンガーマネジメントを身につけると、どんなメリットや変化があるのでしょうか。
怒りの引き金が減る
一番のポイントは、アンガーマネジメントによって怒りの引き金が減ることです。怒りは、第一次感情が積み重なるか許容範囲を超えた結果として発生します。
紹介した例で、もし「私は悲しい」や「私はこう感じた」と伝えられていたらどうでしょうか。多くの場合で、怒りにまで到達せずにいられるかもしれません。また、怒りが発生しやすい状況を知っておけば、回避する手段も見つけられます。
アンガーマネジメントが身につくことで、後で後悔するような「怒らなくていい怒り」が減っていくことが期待できます。
アサーティブで伝えることが身につく
そもそも、第一次感情を上手く伝えられないと感じている人は多いのではないでしょうか。そこで役立つのが、アンガーマネジメントに欠かせない「アサーティブ」というコミュニケーション手法です。
怒っている時は、ついつい攻撃的な言葉を使ってしまいがちです。自己防衛とはいえ、強い言葉は人間関係や、自分自身の気持ちにも悪い影響を与えることがあります。
アサーティブ(assertive)とは、自己主張するという意味で、ただ単に自分の思いを主張するのではなく、相手に配慮する点が特徴です。一方的に気持ちを伝えたり、グッと我慢したりせず、相手の気持ちを考えながら、自分自身の考えや意見を主張します。
怒りに直面したときに効果的なアンガーマネジメント3選
怒りが湧いてきたときに効果的なアンガーマネジメントのテクニックをご紹介します。すぐに取り入れられる方法なので、ぜひ実践してみてください。
(1)その場を離れる「タイムアウト法」
目の前に怒りの原因となった対象がいる場合、いつまで経っても心を落ち着けてリラックスはできません。タイムアウト法では、怒りを収めるために、物理的な距離を取り、遮断します。
トイレに立つ、休憩を取る、外出するなどによって、その場を離れましょう。
(2)ゆっくりと呼吸をする
怒りを感じたとき、まずはゆっくりと呼吸をしましょう。怒っている時は呼吸が浅くなり、脳に必要な酸素が行き渡っていません。脳に酸素が取り入れられると、怒りが鎮まりやすくなります。
ポイントは、腹式呼吸法で口からゆっくりと息を吐き切ってから、鼻から大きく息を吸い、3秒呼吸を止めること。5〜10分ほど繰り返し行うといいでしょう。
肩の力を脱力させながら、全身をリラックスさせることを意識しましょう。
(3)6秒ルール
怒っている状態は、扁桃体が活性化しているとき。怒りに飲み込まれず、理性的に対応するには、前頭前野が活性化するまでの6秒程度をやり過ごせるかが鍵といわれています。
イラッとしたら、まずは6秒をゆっくり数えてみましょう。怒りがゆっくりと鎮まってくるはずです。
日常に取り入れるアンガーマネジメント3選
アンガーマネジメントで最も重要なのは、自分の「怒りの癖」を理解することです。日頃から意識したい方法を3つご紹介します。
(1)人によって異なる「べき」を認める
私たちの怒りのスイッチになるのは、高い確率で「〇〇するべき」という期待が裏切られたときです。
先ほどご紹介した例だと、「自転車は灯火してゆっくり曲がってくるべき」「私は忙しいから優しく扱われるべき」などです。
自分にとっては「べき」でも、相手にとっては「べき」ではないことを認識するのは第一歩です。多種多様なべきがあることを知るだけでも、「私にとっては許せなくても、相手にとっては違う」と客観的に認識できるきっかけになります。
また、自分の「べき」を知ることで怒りを感じやすい状況を把握でき、ストレスに上手く対処できるようになっていきます。
(2)怒りのポイントを記録する「アンガーログ」
アンガーマネジメントは、怒らない方法を身につけるのではなく、「怒るポイントを把握する」ともいえます。怒りの尺度は千差万別で、白か黒かではなく濃淡があります。
そこで役立つのがアンガーログです。「スケール法」と呼ばれる、怒りの強さを数値化して書き出し、第一次感情を見る練習を行います。
やり方は簡単。怒りを感じたら、
【いつ】【どこで】【何があった】【どんな気持ち】【怒りの点数】
を書き出します。この際【べきと思ったこと】を記載して、「べきログ」を兼ねてもいいでしょう。
「この怒りは5点」「この怒りは1点で怒りにはならない」など、自分の怒りのポイントを相対的に捉えることで怒りを上手くコントロールできるようになります。
頭の中で点数を考えるだけでも、怒りのポイントや自分の「べき」を客観的にとらえる練習になります。
(3)第一次感情を伝える「アイメッセージ」
怒りに到達する前に、もやっと抱いた第一次感情を伝えるのが「アイメッセージ」です。アイメッセージは、アサーティブの実践方法の一つで、「私」を主語にして自分の気持ちを伝える技術です。
例えばあと10分で退社時間なのに、明日でも間に合う仕事を「急ぎで」と頼まれたとします。今週はずっと残業続きだったので、ようやく早く帰れると思っていた矢先の出来事です。
アンガーマネジメントができていないと、「嫌だ」と言い返してしまったり、「なんで私ばかり」と思いながら自分の気持ちを押し殺してしまうかもしれません。
一方でアイメッセージを使えば、「今週ずっと残業続きで、今日はなんとか定時で上がれそうなんです。明日朝の対応でも間に合うので、それでよければ私は喜んでお手伝いします」となるでしょう。
困っている相手の事情も汲み取りつつ、自分が置かれている状況を淡々と説明するのがポイントです。
マインドフルネスはアンガーマネジメントに有効と証明
マインドフルネスとは「脳や心を整えるための方法」の一つで、不安やストレスの解消、自己肯定感の向上などが、科学的に実証されています。
筑波大学の研究では、マインドフルネスを実践するとメタ認知の能力が向上し、怒りを客観的に捉えることができるため、アンガーマネジメントに有効なことが明らかになっています。
参考論文・エビデンス :平野 美沙・湯川 進太郎(2013).マインドフルネス瞑想の怒り低減効果に関する実験的検討.心理学研究,第84巻第2号,pp.93–102.
より詳しいマインドフルネスの情報やマインドフルネス瞑想の方法は、こちらの記事で詳しく説明しています。
また、正しい方法でマインドフルネスを身につけたい人は、一般社団法人マインドフルネス瞑想協会の資格を持つプロのインストラクターから学べるMELONオンラインレッスンもおすすめです。
アンガーマネジメントのよくある質問
最後に、アンガーマネジメントについてよくある質問をご紹介します。
アンガーマネジメントを身につければ怒らなくなりますか?
アンガーマネジメントは、怒らなくなる方法ではなく、怒る癖を把握してコントロールするスキルです。
怒るべきときには怒りますが、練習をすることで、怒ったことを後悔するような怒りは消えていきます。
6秒も怒りに耐えられないときは?
怒りのピークは6秒とお伝えしましたが、「6秒も我慢できない」という声もよく聞きます。
そんなときは、体に刺激を与える「ゴムバンド法」や決まった言葉を唱える「コーピングマントラ」を試してみましょう。
ゴムバンド法は、手首に付けたヘアゴムを引っ張って、体に刺激を与える方法です。痛くする必要はありませんが、パチンと刺激を感じる強さがいいでしょう。意識を腕に逸らすことで怒りが弱まります。
コーピングマントラとは、日本語で「対処する呪文」。怒りが込み上げてきたときに唱えるおまじないといったところでしょうか。
「まあいっか」「私は私で大丈夫」など、自分が落ち着く言葉を唱えてみましょう。ペットの名前や好きな動物を選んで頭に思い浮かべるのもおすすめです。
「べき」がとても強いです。アンガーマネジメントで治りますか?
アンガーマネジメントは治療ではなく、怒りの癖を知り認知するセルフケアです。すでに自分の癖に気がついていて、変わりたいと思っているのはすばらしいですね。
イラッとしたときは、「自分とは違う視点がある」ことを意識してみましょう。
例えば締め切りを守らなかった人に「仕事を舐めている」と腹を立てるのではなく、「何か事情があるんだろうな」と考えます。
相手がどんな状況に置かれていたかは、相手にしかわかりません。相手の状況を自分の視点で決めつけないだけでも、「べき」という視点が徐々に減っていくでしょう。
こうした日々の気づきと積み重ねが、アンガーマネジメントを習得する足掛かりになります。
まとめ|アンガーマネジメントは怒りをコントロールするセルフケア
今回は「怒り」が発生する理由やアンガーマネジメントの実践方法を詳しくご紹介しました。
自分の怒りのポイントや「べき」という考えは、観察しないと見つけにくいものです。アンガーマネジメントは怒りを予防するだけでなく、自分自身の「怒りの種」を知るのにも役立ちます。
怒りをより客観的に捉えるのに有効なマインドフルネス瞑想と組み合わせながら、今回ご紹介したテクニックをぜひ実践してみてくださいね。